MA276
Ni-16Cr-16Mo-4W-5Fe (mass%)
広範囲な腐食環境に対して優れたニッケル基耐食合金
特長
MA276は、1960年代の溶解技術向上による低C化が実現したことにより、溶接ままで使用できるように改良されたNi-Cr-Mo系合金です。この合金は溶接熱影響部での粒界析出を抑制することにより、溶接後の熱処理を必要とせずに多くの化学プロセスに使用出来るように改良したものです。なお、MA22、MAT21は、この合金の後に開発されております。
耐食性
MA276は孔食、応力腐食割れだけではなく酸化性および還元性の両方の媒体にも優れた耐食性を示します。また1036℃までの酸化雰囲気にたいしても優れています。
MA276は広範囲の化学プロセス環境に対して、優れた耐食性を示します。例えば塩化第二鉄や塩化第二銅のような強酸化剤、有機物や無機物の混じった高温の媒体、塩化物、ぎ酸、酢酸、無水酢酸、および海水や塩水が挙げられます。
また、硫黄化合物や塩化物に優れた耐食性を有するため、排煙脱硫装置のスクラバーなどに使用されています。 MA276は更に腐食性の強い湿塩素ガス、次亜塩素酸塩、二酸化塩素などでも優れた耐食性を示します。
溶接性・機械加工性
MA276は、ステンレスと同様な塑性加工、成形加工が可能です。MA276の溶接は普通の溶接方法の全てが適用可能ですが、腐食を避ける箇所に使用する場合には酸素アセチレン法およびサブマージドアーク溶接は推奨出来ません。また過大な熱入力を避けるように注意が必要です。
熱処理
MA276素材は特に指定の無い限り、溶体化処理をおこなってあります。溶体化処理を行った後、急冷することにより最大の延性、耐食性、機械加工性が得られます。熱間加工により製造された部品は、最終の組み立て加工や使用の前に溶体化処理を行う必要があります。
形状
板、鍛造品、棒、線、管、溶接線、組立機器類など各種形状が製造可能です。
規格
MA276は下記規格に該当します。
ASTM:UNS No.N10276
板 | 棒、鍛造品 | 管 | 継手 |
---|---|---|---|
B575 | B564 | B619 | B366 |
B574 | B622 | ||
B626 |
ASME:UNS No.N10276
板 | 棒、鍛造品 | 管 | 継手 |
---|---|---|---|
SB-575 | SB-564 | SB-619 | SB-366 |
SB-574 | SB-622 | ||
SB-626 |
JIS:NW0276
板 | 棒 | 管 | 線 |
---|---|---|---|
G4902 | H4553 | H4554 |
耐食性
腐食データ
下記データはビーカーテストによる一例であり、最大あるいは最小値を保証するものではありません。
個々の目的に対する材質の選定には実機試験が必要になります。
溶液 | 濃度(wt%) | 温度(℃) | 腐食速度(mm/年) |
---|---|---|---|
塩酸 | 1 | 50 | 0.007 |
1 | 沸騰 | 0.45 | |
2 | 沸騰 | 1.41 | |
3 | 50 | 0.02 | |
5 | 室温 | 0.01 | |
5 | 沸騰 | 4.00 | |
20 | 沸騰 | 4.93 | |
20 | 80 | 1.00 | |
20 | 60 | 0.46 | |
36 | 沸騰 | 0.15 | |
弗酸 | 2 | 50 | 0.15 |
2 | 70 | 0.27 | |
5 | 70 | 0.36 | |
50 | 70 | 0.63 | |
硫酸 | 1 | 沸騰 | 0.05 |
10 | 沸騰 | 0.68 | |
40 | 沸騰 | 1.70 | |
40 | 100 | 0.58 | |
40 | 80 | 0.06 | |
40 | 60 | 0.01 | |
40 | 40 | 0.00 | |
80 | 120 | 6.62 | |
80 | 100 | 0.47 | |
80 | 80 | 0.16 | |
80 | 60 | 0.02 | |
80 | 40 | 0.00 | |
98.5 | 130 | 2.97 | |
98.5 | 110 | 1.37 | |
98.5 | 90 | 0.11 | |
燐酸 | 5 | 沸騰 | 0.010 |
85 | 沸騰 | 2.98 | |
50 | 50 | 0.003 | |
蟻酸 | 88 | 沸騰 | 0.04 |
酢酸 | 99 | 沸騰 | <0.01 |
硝酸 | 10 | 沸騰 | 0.25 |
60 | 沸騰 | 7.80 | |
60 | 60 | 0.16 | |
65 | 沸騰 | 23 |