2022年ニュースリリース

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日立金属株式会社

鉄鋼冷間圧延用鋳造高性能ロールCR2を開発

~鍛鋼ロール*1の性能の壁を乗り越える鋳造ロール*2を開発~
~耐摩耗性3~5倍、破壊じん性2倍、耐クラック性5倍を実現~

 日立金属株式会社(以下 日立金属)は、鉄鋼冷間圧延*3用として、高性能な鋳造ロールCR2(シーアールツー、Cast Roll for Cold Rolling、以下CR2)を開発し、販売を開始しました。CR2は、冷間圧延工程に求められる高い耐摩耗性(粗度維持性)や耐事故性*4を有しており、冷間圧延工程に導入されることで、生産性の向上に貢献します。

1.背景

 日立金属は、薄板、厚板、形鋼などの生産工程である熱間圧延*5で使用される高性能なロールを、多くのお客様に供給する、熱間圧延用鋳造ロールの国内トップメーカーです。これまで高い開発力と技術力で高性能な熱間圧延用鋳造ハイスロール*6を始め、さまざまな鋳造ロールを供給し、お客様のニーズに応えてきました。

 近年、カーボンニュートラルの流れから、自動車用鋼板の分野では軽量化のニーズが高まり高張力鋼(ハイテン材)*7の使用比率拡大が進んでいます。また、xEV*8の増加に伴い、駆動モーターに使用される電磁鋼板*9の生産量が増加しています。これらの鋼板はいずれも強度が高く、その生産に使用される圧延用ロールは、耐摩耗性や耐クラック性といった高い性能が要求されています。今後も、高張力鋼板は軽量化のために、電磁鋼板はモーター効率化のために、いずれも組織制御や高合金化*10などによる高性能化が進み、さらに硬く伸びにくくなることが予想されます。また、それが鋼板圧延中のスリップ*11や板破断*12といった製造トラブルの増加にもつながることが懸念されます。そのため、圧延ロールに求められる性能はさらに高くなっていくと考えられます。

 古くから、冷間圧延用としては鍛鋼ロールが使用されていますが、近年のハイテン材や電磁鋼板を圧延する上でのニーズである耐摩耗性向上などについて、大幅な性能向上は見られませんでした。また、冷間圧延には金属組織の均一性と高い硬度が要求され、これまで一般的には鋳造ロールは冷間圧延には使用されていませんでした。

 そこで、日立金属では、この課題を解決すべく鍛鋼ロールではなく、得意とする鋳造ロールで、新分野である冷間圧延への供給を目標として開発を行ってまいりました。

2.概要

  • 高性能ワークロール「CR2」(イメージ)
    高性能ワークロール「CR2」(イメージ)

 日立金属は、これまで熱間圧延で使用されるロールの研究開発で培ってきたノウハウと、鋳造欠陥の発生を防止する鋳造技術、精度の高い製造技術で、冷間圧延用鋳造ロールの実現に取り組んできました。その結果、この度、CR2の開発に成功しました。CR2は、鍛鋼ロールと比べ、耐摩耗性3~5倍、破壊じん性2倍、耐クラック性5倍の性能を実現しました。これにより、鋳造ロールとしては新しい分野である冷間圧延のワークロール*13としての使用が可能となり、提供を開始しました。

3.ラインアップ

 CR2は、遠心鋳造複合ロール材「NCW10」と連続鋳掛肉盛複合ロール材「NCW20」の2材質を持ち、ロール使用状況にあわせて選択することが可能です。

CR2ロール(Cast Roll for Cold Rolling)

NCW10・・・遠心鋳造製複合ロール
耐摩耗性に優れた外層 + 強靭なダクタイル鋳鉄の内層

NCW20・・・連続鋳掛肉盛複合ロール
更に耐摩耗性に優れた外層 + 更に強靭な鍛鋼の内層

CR2ロール(Cast Roll for Cold Rolling)
材質 耐摩耗性 耐事故性 耐焼付き性 耐ロールマーク 研削性 総合評価
従来鍛鋼材
(5%Cr)
×
NCW10
NCW20

 現在、冷間圧延用の鍛鋼ワークロールとしては、5%Cr材が主に使用されていますが、CR2の高い耐摩耗性(粗度維持性)と耐事故性は、お客様の生産性向上に貢献することが可能と考えています。お客様にて実施される圧延後の研削に使用される砥石や研削条件等についてもソリューションとして提供可能です。

4.製造拠点

 株式会社日立金属若松(日立金属株式会社100%子会社、福岡県北九州市若松区)

5.販売目標

 10億円/年(2030年度)

6.社外発表

 (一社)日本鉄鋼協会主催の2022年秋季(第184回)講演大会にて本材質の特性について発表を予定しております。

*1 鍛鋼ロール
:鋼の素材を高温に加熱し、鍛造プレスにて鍛錬・成形することにより製造されたロール。
*2 鋳造ロール
:溶かした鉄を型に流し込むことにより、圧延ロール形状に成形されたロール。
*3 冷間圧延
:基本的に常温や室温で行われる圧延工程。圧延により材料が変形する際に発生する熱により材料の温度は上昇します。
*4 耐事故性
:圧延中のロール表面に、急激な熱負荷などにより、クラック、焼付きが生じることを圧延事故と呼び、その圧延事故への耐性を、クラック、焼付きの程度、破壊じん性の数値から総合的に評価したもの。
*5 熱間圧延
:材料を加熱して軟らかくし、加工しやすい状態で行われる圧延工程。鋼材の場合は900~1200℃に加熱されます。
*6 ハイスロール
:工具鋼における高温下での耐軟化性の低さを改善した材質によるロール。ハイスはハイスピードスチール(high-speed steel, 高速度鋼)を縮めた呼称。
*7 高張力鋼
:一般の鋼材よりも引張強さ(抗張力)が高い鋼材、ケイ素やマンガンなどを添加すると共に焼入れ、焼戻しなどの熱処理を加えたもの。490MPa以上の引張強さのものをいう。俗称ハイテン。
*8 xEV
:電気自動車(EV)、ハイブリッド電気自動車(HEV)、プラグインハイブリッド電気自動車(PHEV)の総称です。
*9 電磁鋼板
:電気エネルギーと磁気エネルギーの変換効率が高く、電気部品に使用した時の鉄損の低い鋼材。用途により無方向性と方向性の2種類がある。無方向性は主にモーターの鉄心や発電機、方向性は変圧器の鉄心などに使用される。
*10 高合金化
:主な添加元素の含有量が増えること。
*11 スリップ
:圧延条件の不適により、圧延する板とロール間で発生するすべり現象。圧延条件には圧延荷重、圧延スピード、摩擦係数、張力などが含まれます。状況によってはロールを交換する必要があります。
*12 板破断
:圧延中に板が切れる現象。切れた板がロールに巻き付いたり焼付いたりするため、ロール表面には大きな損傷を受ける場合があります。
*13 ワークロール
:圧延する対象と直接接するロール(図参照)

以上

【報道機関からのお問い合わせ】
日立金属株式会社 コミュニケーション部 担当 南 TEL 090-1043-4934

【お客様からのお問い合わせ】
日立金属株式会社 金属材料事業本部 ロール統括部 担当 足立 TEL 050-3664-9507

〈補足〉CR2(NCW10、NCW20)の特性

■高い耐摩耗性により粗度維持性の向上(難圧延材での組込み期間延長)

図 摩耗試験における転動数と摩耗深さ
図 摩耗試験における転動数と摩耗深さ

■破壊靭性値の向上によりクラック進展を軽減

図 破壊じん性試験結果
図 破壊じん性試験結果

■耐クラック性の向上により事故遭遇時のロールダメージを軽減

図 耐クラック性の向上により事故遭遇時のロールダメージを軽減

◎現在、「NCW20」は一部の国内製鉄所、冷間圧延タンデムミル用ワークロールとして使用されており、高評価を得ています。

図 冷間タンデムミル模式図(4段圧延機×5スタンドの例)
図 冷間タンデムミル模式図(4段圧延機×5スタンドの例)