2022年ニュースリリース

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日立金属株式会社

誘導モーターの高効率化に貢献する高性能磁性くさびの開発

 日立金属株式会社(以下 日立金属)は、モーターの高効率化への取り組みとして、これまで蓄積してきた独自の粉末冶金技術を発展させ、新たなモーター用磁性くさびを開発しました。本製品の高い透磁率や信頼性により、モーターのさらなる低損失・高効率化を実現することで、社会の電力消費およびCO2排出量の低減に貢献してまいります。

1.背景

 誘導モーターは、交流電流の電磁力によって動くモーターで、ポンプや圧縮機などの産業用途や鉄道車両用途などに広く使用されています。現在これら誘導モーターは、各国の「トップランナー制度」※1により高効率化が進められています。また、世界の電力消費量のうち、モーターの電力消費量が40%を占めるといわれており、その高効率化は電力消費量および発電に伴うCO2排出量を削減するために重要な課題であり、さまざまな取り組みがなされています。

 その取り組みの1 つとして、モーターの構造やサイズを変えることなく、実装するだけで高効率化を実現する「磁性くさび」の存在が注目されています。一般的にモーター用のくさびは、コアのスロット部に巻かれたコイルの脱落を防ぐ役割を担っていますが、このくさびに磁性材を用いることでくさびに磁束※2が生じ、エネルギー効率を高めることが可能となります(図1)。しかし、従来の磁性くさび※3は樹脂中に鉄粉を分散させた構造であるため透磁率※4が低く、モーターの効率改善効果を十分に得られない課題がありました。また耐熱性も低く、高温用途には向きませんでした。このためモーターに磁性くさびを用いるには、モーター内の過酷な環境に耐えられる強度や透磁率、そして耐熱性が求められました。

2.概要

  • 写真:高性能磁性楔
    写真:高性能磁性楔

 このたび日立金属は、磁性粒子同士を接着する新技術を用いて、樹脂を含まない新しいタイプの磁性くさびを開発しました。この新技術により磁性粒子の密度を高めることが可能となり、従来比約2倍の高透磁率を実現しました(図2)。また、高密度であるため強度は従来比約1.5倍であり、さらに、樹脂レスであるため高温でも強度が低下しない優れた耐熱性を実現しました(図3)。また、当磁性くさびは従来材を上回る高電気抵抗を有するため磁性くさび自体に発生する渦電流損失※5を抑制することが可能です。その他、この磁性くさびは従来材よりも高い熱伝導率を有するのでモーター冷却効率の向上にも効果が期待できます。

 当磁性くさびと従来材を使用した場合のモーター効率について、コンピューターシミュレーションの結果、ポンプやコンプレッサーなどで使用される一般的なモーター(3.7kW・4極)で、0.5mm以上の当社材を使用することで、磁性くさび無しの場合と比べて約1%の、従来の磁性くさびと比べて約0.5%の効率が向上しました(図4)。このように日立金属の磁性くさびは高透磁率、高強度、高耐熱性という特長があり、これまで磁性くさびが使用されなかった用途・サイズのモーターへも適用が可能です。

 日立金属は、今回の開発により、モーター開発を手掛けるグローバルなお客様にモーター高効率化のソリューションとして本製品を展開することで、「持続可能な社会を支える高機能材料会社」として、カーボンニュートラルの実現に貢献してまいります。

 なお、当磁性くさびは、9月20日からドイツのベルリンで開催される「InnoTrans 2022」※6 にて出展予定です。

以上

【お客様からのお問い合わせ】
日立金属株式会社 グローバル技術革新センター 担当 野口 TEL 048-545-5365

【報道機関からのお問い合わせ】
日立金属株式会社 コミュニケーション部 担当 車谷 TEL 080-2108-0159

図1:磁性楔による誘導モーターの低損失化 →楔が無い状態と比較して損失(赤色部分)が低減されている

写真:図1:磁性楔による誘導モーターの低損失化 →楔が無い状態と比較して損失(赤色部分)が低減されている

図2:当社磁性楔の磁気特性 →従来材対比約2倍の透磁率

写真:図2:当社磁性楔の磁気特性 →従来材対比約2倍の透磁率

図3:強度の温度依存性 →従来材対比で高強度かつ高温でも劣化しない

写真:図3:強度の温度依存性 →従来材対比で高強度かつ高温でも劣化しない

図4:3.7kW誘導モーターの効率比較 →従来材と比較し高効率化に成功

写真:図4:3.7kW誘導モーターの効率比較 →従来材と比較し高効率化に成功
※1 トップランナー制度
:基準値を策定した時点で最もエネルギー効率に優れた機器の数値を超えるのを目標とする「最高基準値方式」に基づく方法で、消費者の満足度と省エネ対策の両立をめざすために策定された制度。日本での採用例:自動車、家電など
※2 磁束
:磁場の各所に作用する力を示す磁力線の集まりで、その場における磁界の強さと方向を、線の束で表したもの。
※3 従来の磁性楔
:特性値などは当社の調査結果に基づく。
※4 透磁率
:磁性材料の磁束の通りやすさを表す尺度。本稿では磁界160kA/mにおける磁束密度を磁界で除した値を使用。
※5 渦電流損失
:金属など電気抵抗の低い物質に交流の磁界が加わると内部に渦状の電流が流れて発熱することで生じる損失。
※6 InnoTrans
:2年に1度の偶数年にドイツ・ベルリンで開催される世界最大の鉄道技術専門の国際見本市。
URL: https://www.innotrans.de/en/