2017年ニュースリリース
株式会社日立金属
ナノ結晶軟質磁性材料ファインメット®およびアモルファス合金Metglas®を使用した100kW 超級高周波電力変換器用ブロックコアの開発
日立金属株式会社(以下 当社)は、高飽和磁束密度と高周波で低鉄損を両立したナノ結晶軟磁性材料ファインメット®、およびアモルファス合金Metglas® を使用したブロックコアを開発しました。当製品を用いることで、変圧器やリアクトルにおいてこれまで以上の小型化が可能となります。
-
写真:ファインメット®ブロックコア
「F3BC」
1.背景
再生可能エネルギー用のパワーコンディショナーや鉄道車両の補助電源などでは、変圧器やリアクトルなどのコイル部品を使用した電力変換が行われています。電力変換器では、半導体の駆動周波数を高くすることでコイル部品を小型化することができ、電力変換器を小型軽量化できます。
しかし、これまでのSi(シリコン)半導体を使用したシステムでは、半導体の耐電圧や発熱により、駆動周波数や電力容量が制限されていました。近年、Si を用いたIGBT※1の高性能化や、SiC(炭化珪素)、GaN(窒化ガリウム)などの次世代半導体の登場により、従来にも増して大容量かつ高周波での駆動が要求されるようになりました。こうした高周波領域では、電磁鋼板を使用した高周波変圧器やリアクトルでは鉄損※2が大きく、これに起因する温度上昇を抑制するために小型化が難しくなるといった課題があります。
2.概要
そこで、当社はナノ結晶軟磁性材料ファインメット®およびアモルファス合金Metglas®の技術特性を応用し、大容量変圧器用大型コアのニーズに応える製品として、ファインメット®ブロックコア「F3BC」およびアモルファスブロックコア「AMBC」シリーズを開発しました。
- 「F3BC」: 口型に組むことで大型のコアを組み立てられ、100 kW超級トランスの小型化に貢献
- 「AMBC」: 容易に大型のマルチギャップコアを組み立てられ、フリンジング磁束※3 による鉄損の軽減や発熱の抑制に貢献
ファインメット®は高周波、特に5~20 kHz 駆動での変圧器用コアに適し、アモルファスは高周波リプル※4 を含むリアクトルのコア材に適しています。鉄損が電磁鋼板より大幅に小さく、より高周波での駆動が可能なことから、これまで当社はファインメット®およびアモルファスを使用したUU 型カットコアを提供してきましたが、このブロックコアの開発により、高周波領域の変圧器においてのさらなる小型軽量化および電力変圧の高効率化が可能です。加えて、当社では初期検討用の標準型ブロックコアの提供だけでなく、お客様のご要望に応じた形状でのコア製造もいたします。
当社では、今後も素材の特性を引き出す新製品開発を進めるとともに、電子部品のさらなる高性能化に貢献し、お客様の幅広いニーズに応えていきます。
3.生産状況
サンプル供給:2017年1月開始、 量産:2017年度下期より
4.製造拠点
日立フェライト電子株式会社
Hitachi Metals (India) Pvt. Ltd.
Hitachi Metals(Thailand) Ltd.
5.特許
基本特許取得済み
以 上
【お客様からのお問い合わせ】
日立金属株式会社 高級金属カンパニー 担当 片山 TEL 03-6774-3471
【報道機関からのお問い合わせ】
日立金属株式会社 コミュニケーション部 担当 車谷 TEL 03-6774-3075
<補足説明>
基本特性(Typical)
F3BC (18μm) |
AMBC (25μm) |
方向性電磁鋼板 (0.23mm) |
|
飽和磁束密度 (Bs) | 1.23 T | 1.56 T | 1.90 T |
磁歪 (λs) | <1 ppm | 27 ppm | -0.8 ppm |
鉄損 (Pcm) 10kHz 0.1T | 0.4 W/kg | 2.3 W/kg | 25 W/kg |
キュリー温度 (Tc ) | 570 ℃ | 392 ℃ | 750℃ |
実効比透磁率 (10kHz) | 5,000 | 3,000 | --- |
最大動作温度 | 130 ℃ | 130 ℃ | --- |
*表の値は代表値であり特性を保証するものではありません
■ 用途: 鉄道用インバーター、太陽光発電、風力発電用パワーコンディショナー、急速充電器など
「F3BC」の特徴:
(1)鉄損が低く、5~20 kHzの駆動周波数に最適
(2)高動作磁束密度に設定可能
(3)磁歪が低く、低騒音
「AMBC」の特徴:
(1)鉄損が低く、高周波のACリアクトルに最適
(2)大型のマルチギャップコアが可能
<用語解説>
- ※1
絶縁ゲートバイポーラトランジスタ。電力抑制用半導体素子の一つで大容量電力変換器の主変換素子に使用されている。 - ※2
鉄心に交流磁界を印加した時に生じるエネルギーの損失。 - ※3
鉄心のギャップから漏えいする磁束。コアに渦電流を発生させ、鉄損増加の要因となる。 - ※4
リプルとは、直流の電流の中に含まれている脈動の成分のこと。リプル電流の周波数や振幅が大きいほどリアクトルの鉄損が大きくなる。