2008年ニュースリリース

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日立金属株式会社

冷間プレス金型用新表面処理技術を開発

日立金属株式会社(本社:東京都港区、社長:持田農夫男、以下 日立金属)は、冷間プレス金型用の新しい表面処理技術を開発いたしました。この表面処理技術により金型寿命を延ばします。

1.背景

 金属表面に皮膜をコーティングする表面処理※1は、金型や自動車エンジン部品の強度、耐久性や摺動性を高めるために有効な技術です。
 日立金属は、表面改質センター(島根県松江市)において、島根県が中心となって推進したプラズマ利用技術開発プロジェクト※2の研究成果である表面処理技術「複合コーティング技術※3」をベースとして、2005年12月から本格的な表面処理事業を開始しております。複合コーティング技術は、PVD(Physical Vapor Deposition 物理蒸着)法のイオンプレーティングとスパッタリングを複合的に組み合わせた技術であり、イオンプレーティングにより硬質皮膜、スパッタリングにより固体潤滑皮膜※4を成膜します。用途別に皮膜の種類を変え、温熱間鍛造型※5用コーティング「Tribec®雅(トライベックミヤビ)」、冷間鍛造型用※6コーティング「Tribec®暁(アカツキ)」、ダイカストピン・入子※7用コーティング「Tribec®魁( サキガケ)」、汎用コーティング「Tribec®剛(タケル)」をラインアップして表面処理事業を推進すると同時に、新しい表面処理技術の開発に取り組んでまいりました。

2.開発の概要

 この度、日立金属は、複合コーティング技術をベースにしたプレス金型※8用の新しい皮膜「Tribec®天( アマツ)」を開発いたしました。この開発皮膜は、プレス金型で一般的なCVD(Chemical Vapor Deposition 化学蒸着)法※9の炭化チタン(TiC)コーティングよりも高硬度、低摩擦係数、および高密着強度を実現します。さらに、CVD法よりも低い温度で成膜が可能なPVD法がベースであるため、処理時に金型の変寸、変形を起こさない特長も併せ持ちます。この開発皮膜により、金型寿命を2倍以上(当社試験値)に延ばします。
 日立金属は、この開発皮膜を表面処理のラインアップに加え、表面処理事業の強化を図ると共に金型材需要の拡大を目指してまいります。

3.開発皮膜「Tribec®天(アマツ)」の構造

  • 図1.開発皮膜の構造
    図1.開発皮膜の構造

 表層側には性能を決定付ける皮膜硬さ:約4000HV※10、摩擦係数(相手材:SUJ2、無潤滑下):0.15の高硬度・低摩擦皮膜を成膜します。また、型材側には使いやすさを考慮し、摩耗量識別を目的とした金色の層を成膜します。

4.特長

(1) 冷間金型用鋼の焼き戻し温度以下で表面処理が可能 表面処理時に金型の歪みを生じさせず、金型の高い寸法精度を保つことが可能です。

表1 表面処理温度

CVD法のTiCコーティング温度 1000℃以上
冷間金型用鋼焼戻し温度 550℃以下
開発皮膜のコーティング温度 520℃以下

(2) 高硬度、低摩擦係数、高密着強度で金型寿命が2倍以上に向上(当社試験値) CVD法のTiCコーティングやPVD法のコーティングに比べ3割以上の高硬度(図2)、低摩擦係数(図3)、コーティングの高密着強度(写真1)により、金型寿命が2倍以上に向上(表2)します。

  • 図2 開発皮膜の特性
    図2 開発皮膜の特性
  • 図3 摩擦係数評価結果
    図3 摩擦係数評価結果
開発皮膜 CVD-TiC
[写真]開発皮膜:剥離無し [写真]CVD-TiC:剥離発生
剥離無し 剥離発生
写真1 密着性評価結果

表2 開発皮膜適用結果

金型 従来表面処理 開発皮膜適用
ハイテン530Mpa
厚み9.3mm 打抜きパンチ
CVD-TiC 寿命3倍
継続使用中
ハイテン530Mpa
厚み3.2mm 打抜きパンチ
CVD-TiC 寿命2倍
継続使用中

(3) 磨耗量識別層により再コーティングが必要な時期を合図
プレス金型は、皮膜が摩耗したところで再コーティングを行い繰り返し使用します。本コーティングは、摩耗量識別層を適用したことで、金型使用中、摩耗により表面の色が変化し、再びコーティングが必要な時期の合図を行います。

5.用途

 プレス金型、冷間鍛造金型

6.発売日

 2008年1月

7.事業計画

 2008年度 25百万円/年
 2010年度 1億円/年

以上

【お客様からのお問い合わせ】
 特殊鋼カンパニー表面改質センター 担当 井上 TEL0852-60-5050

報道機関からのお問い合わせ
 コミュニケーション室 担当 南 TEL03-5765-4079

(ご参考)

1.表面改質センター概要

事業内容 : 金型、自動車部品における表面処理技術の研究開発、製品開発、受託処理
場所 : 島根県松江市北陵町 ソフトビジネスパーク島根内
延床面積 : 約1000 m2
人員 : 約19名
竣工 : 2005年8月27日
操業開始 : 2005年12月

2.用語解説

※1  表面処理
金型や自動車部品の表面のみを硬化させたり、潤滑物質を被覆させたりし、部材の摩擦摩耗特性向上させる処理。炭素を拡散させる(しみこませる)浸炭処理、窒素を拡散させる窒化処理、セラミクス等を被覆するコーティング処理が代表的。

※2  プラズマ利用技術開発プロジェクト
島根県産業技術センター、島根大学および民間企業を中心にプラズマをキーワードとした技術開発を行い、新規産業の創生を目的としたプロジェクト。

※3  複合コーティング技術
・ 金型製造に際して、環境に有害な原料の使用や排ガス発生の少ない焼戻し温度550℃以下で成膜が可能なPVD(Physical Vapor Deposition 物理蒸着)法がベースとなる技術
・ 一般にPVD法には、硬質皮膜の成膜に主として使用されるイオンプレーティング法と、固体潤滑皮膜の成膜に使用されるスパッタ法があり、複合コーティング技術とは、イオンプレーティング法とスパッタ法の異なった方式のPVD法を、同一チャンバー内で連続もしくは同時に使用する手法。イオンプレーティング法とスパッタ法は、動作圧力、成膜温度などがそれぞれ異なるため複合化は難しいが、設備および成膜条件の開発により実用化した。
・ 複合コーティング技術により、従来にない特性、例えば固体潤滑性と耐磨耗性を兼備した物質の成膜が自由に可能となった。

※4  固体潤滑皮膜
二硫化モリブデンなどが代表的な潤滑剤として使用される物質。

※5  温熱間鍛造型
被加工品を700~900℃の"温間"に加熱し鍛造成形する金型。

※6  冷間鍛造型
常温にて鍛造成形する金型。

※7  ダイカストピン・入子
アルミダイカスト法で使用されるネジ穴、形状を鋳抜くインサート金型もしくは部品。

※8  プレス金型
常温にて鋼鈑の曲げ、絞り、シゴキ、抜き加工をする金型。

※9  CVD(Chemical Vapor Deposition 化学蒸着)法
被処理材を1000度以上に加熱し、金属元素を含むガスを被処理材表面で化学反応させ硬質物質を形成するコーティング手法。

※10  HV
ヴィッカース硬さの単位。