2010年 旧 日立電線ニュースリリース

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世界初 圧電定数100pm/Vの鉛フリー圧電薄膜の開発に成功

 日立電線株式会社は、このたび、世界で初めて*1 、圧電定数*2 が100pm/V以上の鉛フリー圧電薄膜を開発し、スパッタリング法により直径4インチの製膜に成功いたしましたので、お知らせします。

 圧電薄膜とは、加えられた圧力を電圧に、また加えられた電圧を圧力に変換する圧電効果を持つ圧電体を薄く形成したもので、一般的にチタン酸ジルコン酸鉛(以下、「PZT」といいます)という鉛を含んだ材料が使われております。主に、デジタルカメラの手ぶれ検知や、自動車のロール検知などに用いられる各種センサや、ピエゾ式インクジェットプリンタ*3 のプリントヘッドなどの材料として使用されております。
 近年、圧電薄膜を使用したデバイスを搭載した機器が急速に増えるとともに、プロジェクター用MEMSミラー*4 *5 や、小型振動発電機など新たな用途への展開が期待されております。また、地球環境保全への意識の高まりから鉛フリー対応が求められております。しかしながら、鉛フリーの材料を用いた圧電薄膜では、充分な圧電定数を満たすことは難しく、実用化のためには特性の改善が課題となっておりました。

 こうした中、このたび日立電線では、圧電定数100 pm/V以上の鉛フリー圧電薄膜を開発し、スパッタリング法による直径4インチの製膜に成功いたしました。
 今回、鉛フリーの圧電材料として、ニオブ酸カリウムナトリウム(以下、「KNN」といいます)を選定しております。KNNは、鉛フリーの圧電材料の中では、バルクセラミックス*6 において高いキュリー温度*7 と優れた圧電特性を有することが確認されていますが、薄膜化の報告は非常に少ない状況でした。これは、優れた圧電特性が期待できるc軸配向性*8 を有する緻密なKNN薄膜の形成が困難であるためです。
 このような課題に対して、製膜条件の最適化により、緻密で高いc軸配向性を有するKNN薄膜を実現する技術を開発しました。さらに、製膜後の熱処理により、配向と共に圧電特性を大きく左右する残留応力の低減に成功しました。これらにより、既存のPZT 圧電薄膜と同等の100pm/V以上の圧電定数を達成し、世界で初めて実用レベルの鉛フリー圧電薄膜を実現いたしました。
 また、製膜方法としては、大面積で再現性の良く製膜でき、量産性に優れたスパッタリング法を採用しております。今回、導入した開発用スパッタリング装置では、直径4インチの製膜に成功しております。

 今後、当社では、直径4インチサイズの量産技術の確立を目指すとともに、さらなる圧電特性の向上に向けた研究・開発に努めてまいります。

 なお、9月14日(火)から9月17日(金)まで長崎大学文教キャンパスにて開催されます「2010年秋季 第71回 応用物理学会学術講演会」において、本開発に関して報告(当社講演番号:16p-NJ-10、16p-NJ-14、16p-NJ-15)を予定しております。

以上

ニオブ酸カリウムナトリウム圧電薄膜の外観と断面

ニオブ酸カリウムナトリウム圧電薄膜の圧電特性

*1 鉛フリー圧電薄膜において、100pm/V以上の圧電定数は世界初(pm=10-12m)。2010年3月19日時点。当社調べ。
*2 圧電定数とは、素子に電圧を印加した際にどれだけ変形するかを示す定数のことです。ここでは圧電定数d31のことです。
*3 ピエゾ式インクジェットプリンタとは、インクノズルの噴射部品に圧電素子を用いたインクジェットプリンタのことです。
*4 MEMSは、Micro Electro Mechanical Systemの略で、機械部品と電子回路を融合した微小電子機械部品のことです。
*5 MEMSミラーとは、電気を流すことにより、反射角度を動かすことの出来る鏡を持つ微細な部品のことです。
*6 バルクセラミックスとは、高温熱処理で焼き固めた焼結体のことです。脆いため微細加工が困難です。
*7 キュリー温度とは、強誘電体が常誘電体に変化する転移温度、もしくは強磁性体が常磁性体に変化する転移温度のことです。キュリー温度以上では圧電性が消失します。
*8 c軸とは、結晶を3次のグラフで表す際に用いる結晶軸の一つです。