2007年 旧 日立電線ニュースリリース
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浸水環境下で使用される電力ケーブルに発生する
絶縁不良部分の元素分布を可視化することに成功
日立電線株式会社(執行役社長:佐藤 教郎/以下、日立電線)と株式会社日立製作所 基礎研究所(所長:長我部 信行/以下、日立製作所)は、このたび、財団法人高輝度光科学研究センター(理事長:吉良 爽)、独立行政法人理化学研究所(理事長:野依 良治)の高輝度放射光実験施設「SPring-8」を利用し、地中送電用の電力ケーブルに発生する樹枝状の絶縁不良部分(水トリー*1)の元素分布を可視化することに成功しました。水トリーは、電力ケーブルが地中に直接埋設されるなど湿潤もしくは浸水環境下で使用される際に、電力ケーブルの絶縁材料中に発生し、絶縁強度の低下を招く欠陥です。今回、スポット径を1μm(マイクロメートル:1000分の1ミリメートル)以下に絞り込んだX線ビームを用いることによって、水トリー部の元素分布を可視化し、電解質化した異物を起点した水トリーが、樹枝状やボウタイ状に大きく広がりながら生成されることを明らかにしました。今後、水トリーの発生メカニズムを解明することで電力ケーブルの長寿命化や信頼性の向上が期待されます。
地中に埋設して使用される送電用の電力ケーブルは、時間経過とともに、外部からの浸水などにより絶縁材料中に樹枝状の欠陥である水トリーが生成され、絶縁強度の劣化を招くことがありました。これまでの研究で、水トリーの発生・成長に影響を与える要因として電解質を含んだ異物や水の影響が報告されています。しかし、実際に、イオンが絶縁材料中でどのように拡散し、水トリーの成長に関わっているかなど、いまだ不明な点が残されていました。
今後、電力ケーブルの長寿命化や信頼性を向上させていくためには、水トリーの構造と組成を明らかにし、その防止策を検討することが重要な課題となっていました。
そこで、今回、日立電線と日立製作所は共同で、絶縁材料である架橋ポリエチレンに実験的に水トリーを発生させ、これを固体中の元素分布分析が可能なX線分光顕微法*2 を用いて、詳細な分析を行いました。今回の分析は、SPring-8の高輝度放射光*3を利用して行われたもので、日立製作所が開発した、X線を直径1μm以下の微小スポットに集光する技術*4によって形成された高輝度微小X線ビームを用いることにより、水トリー部の微小領域における極微量な元素の分布を可視化することに初めて成功しました。
分析の結果、以下のことが明らかとなりました。
(1) | Cu (銅)やFe (鉄)、Ni (ニッケル)などの金属微粉を起点とする水トリーは、棒状で、あまり大きく広がらない。 |
(2) | CuCl2(塩化銅)やCaCO3(炭酸カルシウム)、KCO3(炭酸カリウム)などの電解質化した異物を起点した水トリーは、樹枝状やボウタイ状に大きく広がる。 |
これらの結果から、架橋ポリエチレン中に混入した電解質を原因として、大きな水トリーが成長し、劣化が進行するものと推測されます。今回得られた結果をもとに、今後、水トリーの発生メカニズムを解明することで、電力ケーブルの長寿命化や信頼性の向上が期待されます。
*1 | 水トリー:電力ケーブルの絶縁材料中に、外部から混入した異物や空孔を起点として発生する樹枝状の欠陥です。欠陥が発生する起点により、半導電層と絶縁体の界面から発生する界面水トリー(Vented Tree)と絶縁体内部を起点に発生するボウタイ状水トリー(Bow-tie Tree)の2種類があります。 |
*2 | X線分光顕微法:微小ビームに絞り込んだ強力なX線を試料に照射して、そこから生じる元素固有の蛍光X線(二次X線)をX線検出器により観測し、X線の波長を選別することで、元素の定性・定量分析をする非破壊分析法。 |
*3 | 放射光(Synchrotron orbit radiation):光速に近い速度の電子が磁場中で曲線軌道を描くときに放出する、赤外光からX線までの波長の電磁波です。SPring-8は、放射光の輝度を大幅に向上した第3世代の放射光源です。 |
*4 | 高輝度放射光を楕円筒鏡2枚で、それぞれX方向、Y方向に集光して、直径1μm以下にする技術です。これをX線分光顕微法に用いることで、高感度・高分解能の観察が可能となります |
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左:電力ケーブルの構造 (例)
右:電力ケーブルに発生する水トリーの模式図 (例)
観察結果図
水トリー発生部の観察結果例 (上下の写真と図が対応)
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(a)光学顕微鏡写真
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(b)高輝度X線による元素の拡散状況分析結果
照会先
日立電線株式会社 総務部広報グループ(担当 小泉)
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電話 03-6381-1050
株式会社 日立製作所 中央研究所 企画室 (担当:花輪、木下)
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以上