2001年 旧 日立電線ニュースリリース

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1GHzのNMR装置用コイル向け長尺(3.5km)超電導線材を開発

 このたび当社は、(株)日立製作所(以下、日立製作所といいます。)及び独立行政法人物質・材料研究機構(以下、物質・材料研究機構といいます。)と共同で、タンパク質構造解析のための1GHz NMR*1 装置用コイルへの適用が期待される、長さ3.5km、断面が矩形(くけい)のビスマス系酸化物超電導線材を世界で初めて開発しました。

 人間の遺伝子の働きを解明するのに大きな役割を果たすタンパク質の立体構造の解析には、NMR装置により1GHzの磁気共振を正確に検出する必要がありますが、そのためには極めて強い磁場(23.5T[テスラ])を安定して発生できるマグネットが不可欠です。これまで実用化されている800MHzのNMRでは、NbTiやNb3Snといった金属系の超電導線材を使って、18.8Tの磁場を発生させていました。しかし、23.5Tのような強い磁場を発生させるためには、マグネットの内層部分を、これまでにはない新しい超電導体コイルで形成する必要があり、それに適した超電導線材の開発が急がれていました。

 このような状況の中、ビスマス系酸化物超電導線材は、磁場が強い環境でも臨界電流密度*2 が大きいため、1GHzのNMR装置用コイル向けとして有望と考えられ、各所で開発が進められています。しかし、NMR装置用コイルは、非常に強い磁場の中で、空間的、時間的に安定した磁場を発生させねばならず、様々な厳しい条件を満たす必要があります。

 第一に、線材の断面形状は、寸法精度の優れたコイルを作製することのできる、矩形であることが必要です。コイルは、発生磁場を均一にするため、ソレノイド*3 型であることが条件となりますが、これまで開発されているテープ型や丸型の酸化物線材では、理想的なソレノイドを実現することが困難でした。*4
第二に、長尺であることが求められます。接続部がある線材でコイルをつくると、電流分布の乱れが磁場の乱れを発生させ、さらに、わずかな電気抵抗の発生が磁場の時間的な安定性を損ないます。連続した1本の線材でコイルを形成するには、短くても単長で約2kmの線材を必要とします。

 このたび開発した酸化物超電導線材は、独自開発した製造技術により、線材内部の超電導部の対称性を保持し、かつ線材の上下面だけではなく側面形状をも制御しながら、矩形に加工されています。

具体的な製造プロセス

(1) テープ状に成形したビスマス系材料を、銀パイプの中に3回の回転対称性を持たせた状態で組み込み、線引き加工します(ROSAT*5 法。1998年に当社、日立製作所及び物質・材料研究機構(当時科学技術庁金属材料技術研究所)が共同で開発済み)。
この工程により、テープ形状の利点である高い臨界電流密度を維持できます。(図1-(1))
(2) それらを再び銀合金パイプの中に規則正しく組み込み、線引き加工します。
この工程では、内部構造が対称性を有するROSAT線の作製と従来から行われている多芯プロセスを融合させることで、線材全体として規則的な配列を保持できるようになり、長尺化への対応を可能にしました。(図1-(2))
(3) 矩形状への加工を行います。
この工程では、矩形加工技術を工夫し、線材の中心部と周辺部の場所の違いによる超電導部材の変形の違いを小さくすることが可能となり、特性の向上と線材の寸法精度の向上を両立させました。(図1-(3))(写真1)

上記プロセスを経て製造される本酸化物超電導線材の特徴は、下記のとおりです。

1.超高磁場を実現

 1GHzのNMR装置の発生磁場は23.5Tで、そのときに必要な超電導線材の臨界電流密度は100A/mm2となります。今回開発した線材の両端から短いサンプルを切り出し、超電導化熱処理を施した後に、超電導特性を測定したところ、140A/mm2の臨界電流密度が得ました(液体ヘリウム温度-269℃での測定)。これにより、1GHzのNMR装置を実現する上で十分な臨界電流密度を持つことを確認しました。

2.強度を2倍に向上

 23.5Tという超強磁場を発生させる際には、線材には大きな力がかかりますが、線材の被覆材として、新たに銀合金を採用することにより、線材強度が従来線材の約2倍に向上しました。

3.長尺を実現

 上記プロセス(2)の工程により、NMR用に十分である3.5kmを達成することができました。

 現在、タンパク質構造解析NMR装置は、ポストゲノム時代に遺伝子情報に基づく生体内での働きを解明するために役立つ重要な技術と考えられ、世界中で研究が進められています。
 今回開発した酸化物超電導線材は、1GHz級NMR装置の実現に向けた、大きな前進となる成果として期待されます。今後、日立グループは物質・材料研究機構と共同で今回開発した線材を用い、世界に先駆けて1GHz級NMR用コイル製作を進め、2001年度内にも、既に開発されている900MHz超級のNMR超電導マグネット装置と組み合わせた試験を行う予定です。
 また、今回開発した酸化物超電導線材は、MRI(Magnetic Resonance Imaging)などの医療・産業機器、また、さらに強い磁場の発生という点でも、展望を拓く基盤技術になると考えられます。

 なお、本件については、明星大学(東京都日野市)で5月16日から開催される、低温工学会主催の「低温工学・超電導学会」で発表する予定です。

*1 NMR:核磁気共鳴 Nuclear Magnetic Resonance
*2 臨界電流密度:超電導体に抵抗ゼロの状態で流すことができる電流の密度を示すもの。
*3 線材を、糸巻きのように同一軸にそって均一に巻いていくこと。
*4 テープ型や丸型~困難:テープ型は、線材の厚さと幅の比率が大きいので、ソレノイド型に巻くことが困難です。また、丸型の場合は、コイル巻密度が低くなってしまい、充分な磁場を発生することが困難です。
*5 ROSAT:Rotation-Symmetric Arranged Tape-in-tube wire、回転対称テープインチューブ線

本製品の開発拠点

〒300-0026 茨城県土浦市木田余3550番地(土浦工場内)
アドバンスリサーチセンタ

図1. 3.5Km短形ROSAT線材の作成方法

  • 図1

図2. 1GHz級NMRマグネット概略図

  • 図2

写真1.今回開発短形線材(厚さ1.0mm-幅2.0mm)

  • 写真1

写真2. 従来丸型線材(外径1.6mm)

  • 写真2