1998年 旧 日立電線ニュースリリース
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実用的な形状と性能を有した画期的な高温超電導線材を開発
このたび当社は、科学技術庁金属材料技術研究所及び(株)日立製作所と共同で、実用的な形状と性能を有する高温超電導線材を開発いたしました。
この新しい高温超電導線材は、ROSAT wire(Rotation-Symmetric Arranged Tape-in-tube wire、回転対称テープインチューブ線)と呼ばれるもので、丸線、あるいは平角線の形状をしております。
一般的に高温超電導体は、「電流の流れやすい結晶面」と「電流の流れにくい結晶面」を有した構造をしています。そのため、高温超電導線材の臨界電流密度*1 を向上させるためには、この「電流が流れやすい結晶面」を平行にそろえる必要性があることから、事実上、高温超電導線材は、これまでテープ線状でなければ、高い臨界電流密度を得ることができませんでした。しかし、今回、当社及び科学技術庁金属材料技術研究所、(株)日立製作所は、まったく新しい製法により、テープ材の長所を丸線構造に適用することによって、初めて1,000A(アンペア)級の実用的な高温超電導線材への道を拓くことに成功したものです。
高温超電導材料の1つであるBi(ビスマス)-2212線材は、極低温度(液体ヘリウム温度-269℃)で金属系材料よりも遙かに高い臨界磁界を有することから、核融合炉や加速器、医療用MRI装置など強磁場を応用した各種装置に適用可能と考えられ、従来より精力的に開発が進められています。
しかし、ビスマス系材料は、上記のとおり線材を構成する際、「電流が流れやすい結晶面」を平行にそろえるという「配向性」を向上させた構造にする必要があり、また、さらに高い臨界電流密度を得るためには、ビスマス系材料の超電導フィラメントを埋め込む下地となる平滑な銀との界面積を増やすことが条件となっておりました。
以上の理由から、ビスマス系材料は、従来、一般的に以下のような方法でテープ状線材を作っていました。
(1)銀パイプに超電導粉末を充填した後、線引き加工を行って長尺化する。
(2)それを圧延加工し、薄く緻密な多芯フィラメントを形成する。
(3)超電導化のための熱処理を施す。
しかし、この様なテープ線材では、テープの厚みと幅を均一に揃えることが容易ではなく、さらに、コイルを製作する際に一般的なソレノイド巻き*2 ができないため、コイル形式、製作の点で大きな制約があり、このためこれらの問題点を克服できる高性能の丸線材の開発が望まれていました。
今回開発された高温超電導線材の作製法は、一旦、ビスマス系材料を多芯テープ状に成形した後、再び、銀パイプの中にこの成形したテープを組み込み、線引き加工した後、超電導化するための熱処理を施すというものです。この方法は、従来にも試みられた例がありましたが、テープを組み込んだ後の線引き加工の際に、フィラメントの形が乱れ易くなるという問題があり、これが長尺線材化の障害になっていました。この現象を抑止するため、今回開発した線材では、テープ状のフィラメント配置に、断面内で3回の回転対称性を持たせました。これにより、加工の際の均一性が大幅に増し、加工による断面形状の乱れはほとんどなくなりました。
また、丸線の中に多数の均質なテープ状のフィラメントを埋め込む技術ができたことで、フィラメント内部の結晶について「配向性」が向上し、さらには1,000芯と、フィラメント数を従来テープ線材の約20倍に増加させることによって銀との界面積が増し、その結果従来のテープ形状の線材と比較して遜色ない、1,000A級の電流容量、2,500A/mの臨界電流密度を初めて実現できたものです(液体ヘリウム温度-269℃での測定)。また、本線材を科学技術庁金属材料技術研究所において、超高磁場(20テスラ以上)中で測定したところ、300A以上の電流容量を持つことが実証されております。
この高温超電導線材を、今後はkm単位の長さの長尺線材に適用し、平角状に成形することによって、均一磁場発生用のマグネットなどの開発を進めていく予定です。
また、高温超電導線材がテープ状でなければならないという形状面の制約が取り払われることにより、さらに広範囲への応用展開が期待されています。
なお、本件は7月12日(日)から沖縄県那覇市で開催される1998年国際超電導ワークショップ(於:沖縄ハーバービューホテル)で発表される予定です。
以上
*1 | 臨界電流密度 超電導体に抵抗ゼロの状態で流すことができる電流値を示すもの。 |
*2 | ソレノイド巻き 導線を、糸巻きのように同一軸にそって、均一に巻いていくこと。 |
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