1998年 旧 日立電線ニュースリリース

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世界最大級交流超電導マグネット開発

 この程当社は、交流用NbTi撚線を用いて、直径100 mmの有効空間に1.5 Tpeakの交流(50 Hz)磁界、150ミリメートルの有効空間に1.0Tpeakの交流(50 Hz)磁界を安定に発生させることのできる世界最大級の交流超電導マグネットを開発した。
 また、交流用Nb3Sn撚線を用いたマグネットでは、熱処理してNb3Sn化合物層を形成させた後にコイル巻線を行うR & W法を適用して、50ミリメートルの有効空間に2.0 Tpeakの交流(50 Hz)磁界を発生させることに成功した。これも交流Nb3Snマグネットとしては世界最大級である。
 これらの研究は、通産省工業技術院ニューサンシャイン計画「超電導電力応用技術開発」の一環として、新エネルギー・産業技術総合開発機構 (NEDO) から委託を受け、超電導発電関連機器・材料技術研究組合(Super-GM) の研究テーマとして実施してきたものである。

 これまでも実験室的な規模の交流超電導小コイルは製作されてきているが、今回開発した超電導マグネットは、実際に測定等に使用することのできる大きな交流磁場空間を有する画期的なものである。これは、この10年間、Super-GM の一員として開発に取り組んできたNbTiおよびNb3Sn素線の低交流損失化の成果を集約して設計製作した撚線を適用し、さらに、これまで交流超電導コイルでは高々50%程度が常識とされていた負荷率を、コイル巻線技術の工夫によって85~90%に高めることによって達成されたものである。

NbTiマグネット

 NbTiコイルは、高抵抗芯線のまわりにフィラメント径0.1マイクロメートル、外径0.25ミリメートルのNbTi/Cu-30Ni-Mn素線を12本撚り合せた、1.6ミリメートル(絶縁後)の一次撚線から巻かれている。この素線では、Cu-30Niマトリックスに添加した強磁性Mn元素による近接効果低減と、フィラメント径を0.1マイクロメートルにまで均一に加工して可逆磁束運動が出現したことの重畳効果により、通電電流1Aあたりのヒステリシス損失は、仏Alsthom社のT型素線の1/8と世界最小値を達成している。芯線および各素線は、撚線後にピンホールからの導通がないよう十分厚いホルマール絶縁が施されている。
 コイル設計にあたっては、特に絶縁設計と撚線導体固定方法に留意した。150ミリメートルボアコイルでは、60 Hzで1 Tpeak発生時に約7,000 Vrmsの端子間電圧が発生するのでコロナ放電をできるだけ抑える構造とし、また、巻線構造は、電界集中がないよう配慮した。交流コイルにおいて負荷率を高めるキーポイントは励磁時に発生する電磁力に対抗して導体の動きを極力抑えることと考え、コイル巻枠の導体固定設計ならびにエポキシ含浸テクニックについて十分な検討を実施した。
 150ミリメートルボアの交流マグネットは、20~60 Hzの範囲でLC共振回路により周波数調整可能であるが、50 Hzで238 Apeak 通電により、1 Tpeak の磁界を安定して長時間発生可能であることが確認されている。

Nb3Snマグネット

 金属間化合物であるNb3Snは機械的に非常に脆く、フィラメント径数マイクロメートルの Nb3Sn線材の場合、可逆歪み限界が ~0.6 % であるためNb3Sn化合物層生成後はこれに応じたハンドリングが必要となるので、中小規模のコイル製作においては、一般にW&R (コイル巻線後に、Nb3Sn生成熱処理)法がとられる。しかしながら、この交流用Nb3Sn素線の開発において、当社は、フィラメント径が0.5マイクロメートル程度になると、可逆歪み限界は、1.5 % 以上に大きくなることを見出している。今回、撚線状態でNb3Sn生成熱処理を施した後コイル巻線を行って製作したφ50ミリメートルボアコイルで所期のコイル特性が達成されており、交流 Nb3Snコイル製作の場合、R & W法が適用可能であることを実証した。これは、NbTi導体と同様の扱いで交流Nb3Snコイル製作ができるということを意味し、b3Sn線材の高い温度マージン、すぐれた高磁界特性と併せて、さらに高性能の超電導電力機器実現に向けて大きく前進したと言える。

 これらの超電導マグネットのうち、150ミリメートルのNbTiマグネットは、Super-GMで開発を行っているNbTiおよびNb3Snの交流大容量導体の臨界電流特性、交流損失等の性能評価のために開発された交流大容量導体特性試験装置の交流磁界発生用マグネットに採用され、通産省工業技術院の電子技術総合研究所に設置されている。

以上