1994年 旧 日立電線ニュースリリース

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世界最高の低損失・高耐歪み交流用Nb3Sn超電導線材を開発

 このほど当社は、世界最高の低損失・高耐歪み高流用ニオブ・3・スズ(Nb3Sn)化合物系超電導線材の開発に成功しました。これは、一昨年、当社が開発した低損失高流用ニオブ・チタン(NbTi)超電導線材の開発成果を生かしつつ、化合物系線材の欠点である機械的歪みによる超電導特性の劣化をも大幅に軽減できたことによるものです。
 NbTi線材の場合、超電導状態が失われる臨界温度は、9K(-264度C)ですが、今回開発したNb3Sn線材の臨界温度は、14K(-259度C)と高く、液体ヘリウム(沸点4.2K)で使用する場合、Nb3Sn線材の方がNbTi線材に比べて使用温度範囲(「温度マージン」といいます。)を約2倍大きくとれるため、実用面での安定性を高めることができます。これにより、現在、各所で試作開発が進められている全超電導発電機、分路リアクトル、変圧器、限流器等の超電導を利用した交流電力機器の実用化への大きな足掛かりができました。

 高流用超電導電力機器を実用化するには、交流電流から生じる変動磁界による電気抵抗(いわゆる交流損失)に伴い生じる温度上昇で超電導状態が破られるのを防ぐために、超電導線材の交流損失の低減が不可欠の条件でした。また、線材の単位面s器当たりの交流損失が低減されても、通電電流容量が小さければ、線材の量が増え、結果的に機器の損失が大きくなってしまうため、超電導線材の通電電流密度の向上も必須の条件でした。さらに、Nb3Sn等の金属間化合物は、一般にもろく、機械的歪みに弱いという欠点があり、それの克服も大きな課題でした。
 今般、当社では、Nbフィラメントにタンタル(Ta)を、銅-スズ(Cu-Sn)ブロンズマトリックス(注:マトリックスとは、超電導フィラメントを埋め込む下地のこと。)にゲルマニウム(Ge)を、それぞれ添加することにより、上記の3つの課題をバランスよくクリアすることに成功しました。

 超電導線材の交流損失は、ヒステリシス損失と結合損失の二つに大別することができます。ヒステリシス損失とは、超電導体の磁束が変動磁界下で運動することにより発生する、超電導体そのものに起因するエネルギー損失のことで、これを低減するには、フィラメント径をΦ0.2マイクロm前後まで細くする必要があります。また、結合損失とは、変動磁界下で生じる遮<電流が超電導フィラメント間のマトリックスを還流することにより生じる、いわゆるジュール損失です。これを低減するには、マトリックスに低効率の大きい合金(Nb3Sn線材の場合は、一般的にはブロンズ合金)を用いるとともに、フィラメントのツィスト(撚り)ピッチをできるだけ小さくする必要があります。

 また、超電導線材断面積当たりの通電電流密度を上げるためには、フィラメント間隔をある一定以下にし、線材断面積を小さくする必要がありますが、これを進めますと、近接効果と呼ばれる現象によりフィラメント同士が電気的に結合して、線材そのものがあたかも1本の太いフィラメントのような状況となり、ヒステリシス損失がかえって増大してしまいます。
 近接効果の発生を抑え、かつ、フィラメント間隔をできるだけ狭くできるようにするためには、結合損失の低減策と同様に、マトリックスの抵抗率を大きくして、フィラメント同士の電気的な結合を抑えることが有効です。
 一方、Nb3Snに限らず一般に金属間化合物は、機械的強度が弱く、これを改善する方法としては、化合物自身の結晶粒を細かくするか、Nb3Sn超電導線材のような複合材料の場合には、マトリックス材料の機械的強度を上げることなどが一般的です。
 さらに、線材加工時にフィラメントが異常変形すると、フィラメント間隔の狭い箇所が発生してしまう虞があり、フィラメントをいかに均一に加工するかも、ヒステリシス損失の低減のためには、重要な課題です。

 当社では、こうした点を踏まえ、今回、NbフィラメントにTaを添加し、純粋なNbフィラメントの線材加工時に発生しやすいリボン状の異常変形を抑え、かつ、ブロンズマトリックスにGeを添加し、マトリックスの抵抗率を大きくすることによりヒステリシス損失を低減させました。
 今回開発した線材は、Φ0.2マイクロm前後のNb3Snフィラメントをブロンズマトリックス中に精密複合化したもので、線径は、約0.3mmです。この線材を使って、当社で計測したところ、周波数50Hz、磁場振幅0.5Tで、交流損失を約20kW/m3に抑え、通電電流密度も、0.5Tの磁場振幅で、約1,000A/mm2と、銅線の最大許容通電電流密度の約10倍以上の記録を達成できました。これは、従来の最高性能を有する交流用Nb3Sn超電導線材の2倍以上の性能で、世界最高のものといえます。

 また、フィラメントの超極細化に伴い、Nb3Sn生成熱処理温度が従来より約150度C低い500度Cとなり、Nb3Sn結晶粒の微細化とGe添加のブロンズマトリックスの機械的特性の強化とが相まって、通電電流の機械的歪みによる劣化を大幅に軽減することも可能となりました。因みに、この線材では、通電電流を劣化させることなく、線材に負荷できる最大可逆曲げ歪みが従来のものの約4倍の3.8%(線材の表面歪み)まで拡大しました。

以上