1992年 旧 日立電線ニュースリリース

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世界最高レベルの低損失・交流用NbTi超電導線材を開発

 このほど当社は、世界最高レベルの低損失・交流用ニオブ・チタン(NbTi)超電導線材を開発し、超電導を利用した交流電力機器の実現可能性を大きく前進させることに成功しました。これは、交流損失を低く抑えるとともに、安定性に優れ、かつ、通電電流容量を確保できる常電導マトリックス(超電導フィラメントを埋め込む下地のこと。)合金の成分比の解明及び線材断面構成の最適化を図ることにより開発したものです。

 電流が一定の直流状態では完全に抵抗ゼロとなる超電導線材も、電流が変化する交流状態においては、変動磁界にさらされ、いわゆる交流損失による抵抗が発生します。従って、一般的に使用されている交流(周波数50-60Hz)の電力機器に、超電導線材をそのまま適用すると、エネルギー効率が下がり、超電導を利用するメリットが失われてしまう結果となります。そのため、交流用超電導電力機器を実用化するには、超電導線材の交流損失の低減が必須の条件でした。

 一方、線材の単位体積当たりの交流損失の低減が図れても、通電電流容量が小さければ、線材の量が増え、結果的に聞き全体としての損失は大きくなってしまいます。つまり、交流用超電導電力機器の実用化のためには、超電導線材の通電電流密度の向上も不可欠の条件でした。
今般、当社では、NbTiフィラメントを埋め込む常電導マトリックスの材料に、従来の銅・ニッケル(Cu-Ni)合金ではなく、Cu-Ni合金にマンガン(Mn)を添加したもの(Cu-30wt%Ni-0.9wt%Mn)を用いることにより、上記の2つの条件をバランスよくクリアすることに成功しました。

 超電導線材の交流損失には、大別して、ヒステリシス損失と結合損失とがあります。ヒステリシス損失とは、超電導体のピンニングに補足されている磁束が変動磁界下で運動することにより発生する、超電導体自身に起因するエネルギー損失のことで、これを低減するためには、フィラメント径をΦ0.1マイクロm前後にまで細くする必要があります。また、結合損失とは、変動磁界下で生じる遮<電流が超電導フィラメント間の常電導マトリックスを還流することによって生じる、いわゆるジュール損失で、これを低減するためには、マトリックスに低効率の大きい合金(一般的にはCu-Ni合金)を用い、かつ、フィラメントのツイスト(撚り)ピッチをできるだけ小さくすることが必要です。

 一方、超電導線材断面積当たりの通電電流密度を上げるためには、フィラメント間隔をある一定距離以下にし、線材断面積を小さくする必要がありますが、これを進めますと、いわゆる近接効果のために、フィラメント同士が互いに電気的に結合して、あたかも1本の太いフィラメントのようになり、ヒステリシス損失が逆に増大していまうという現象が起こります。

 近接効果の発生を抑え、フィラメント間隔をできるだけ狭くできるようにする方法としては、結合損失の低減策と同様に、マトリックスに低効率の大きい合金を用いる方法(抵抗散乱効果という。)と、強い磁気モーメントを有する元素マトリックスに添加する方法(磁性散乱効果という。)の2つがあります。抵抗散乱効果にはCu-Ni合金が有効で、また、Cuに固溶して最も大きな磁性散乱効果を示す元素はMnで、ごく少量でも近接効果の発生を抑える働きがあります。

 当社では、以上の理論的な裏付けのもとに、今回、NiとMnの優れた性質をバランスよく組みあわせたCu-Ni-Mn合金のマトリックスに、Φ0.1マイクロm前後のNbTiフィラメントを精密に埋め込んだ線材を開発し、周波数50Hz、磁場振幅0.5Tで、交流損失を3.3kW/m3に抑え、通電電流密度も、0.5Tの磁場振幅で1200A/mm2と、銅線の最大許容通電電流密度の12倍以上の記録を達成することができました。これは、従来の最高性能を有する交流用超電導線材の約2倍の性能を有するといえます。

 交流用超電導電力機器としては、全超電導発電機、分路リアクトル、変圧器、限流器、超電導リニアインダクションモーター等が考えられており、現在、各所でその試作開発が進められていますが、今回の成果は、これらの交流超電導電力機器の実用化への大きな足掛かりができたことを意味します。また、50~60Hzの商用周波数で連続通電する交流電力機器とは別に、核融合用のポロイダルコイルといったパルスマグネットの実用化研究においても、今回の成果の波及効果は、大きなものがあります。

以上