2006年 旧 日立電線ニュースリリース

一覧へ戻る

このニュースリリース記載の情報(製品価格、製品仕様、サービスの内容、発売日、お問い合わせ先、URL等)は、発表日現在の情報です。予告なしに変更され、検索日と情報が異なる可能性もありますので、あらかじめご了承ください。

鉛フリーの錫めっきFFC(フレキシブル・フラット・ケーブル)における
ウィスカ発生の抑制理由の一端を解明

 このたび日立電線株式会社は、FFC(フレキシブル・フラット・ケーブル)用導体の鉛フリー錫めっき表面にナノオーダーの亜鉛コーティングを施すことで、ウィスカ(錫のひげ結晶)の発生を抑制する理由の一端を解明いたしましたのでお知らせします。

 FFCは、複数の導体を並べて絶縁フィルムで挟んだフラットな形状をした多芯ケーブルです。電子機器内において折り曲げて使用することが可能で、デジタルカメラ、オーディオ、液晶テレビといった家電や事務用機器等に多く用いられています(図1参照)。
 従来、FFCの導体には、コネクタとの接続時の不具合を防止するために、錫と鉛の合金であるはんだめっき等が施されていました。しかし、本年7月に欧州連合(EU)において電気・電子機器に関する特定有害物質規制(RoHS)が施行される等、製品の鉛フリー化への対応が必要となっております。
 しかし、FFCの導体にはんだめっきの代替として使われることが多い錫めっきを使用した場合、FFCとコネクタとの接続部周辺の錫めっき表面からウィスカと呼ばれる錫のひげ結晶(図2参照)が発生し、このウィスカがFFCの配線と配線の間を短絡させ機器が故障する原因になるといわれております。
 FFCの導体に錫めっきをすると、大気中では錫めっき表面に極めて薄い錫酸化膜が形成されます。コネクタ等との接続により力が加わることで変形が起こり、この薄い酸化膜表面にも応力の発生や集中が予想されます。ウィスカが発生する原因は、この酸化膜表面の弱い部分にウィスカの成長する力が集中するためと推測されています。現在でも、ウィスカの発生メカニズムは完全には解明されておらず、現象解明が望まれている状況にあります。

 当社グループでは、2000年後半からウィスカの発生を抑制した錫めっき導体FFCを、2005年前半よりウィスカが発生しない金めっき導体FFCを提供しております。また、2004年前半から金めっき導体FFCよりコスト的に優れる錫めっき導体FFCのさらなるウィスカ抑制の検討を重ねてまいりました。
 さまざまな検討を行った結果、錫めっき表面に薄く亜鉛をナノコーティングすることでウィスカ発生を効率よく抑制できることが判りました。そこで、錫めっき表面にナノオーダーの亜鉛をコーティングした「モデファイドII錫めっき導体」を開発し、それを使用したFFCを2005年度後半より量産しております。これまでに大手電機メーカー殿やコネクターメーカー殿などに採用されてご好評をいただいておりますが、ウィスカ抑制の理由については当初十分な解析には至りませんでした。

 こうした中、当社では東京大学名誉教授の菅野幹宏教授のご指導の下、モデファイドII錫めっき導体を使用したFFCのウィスカ抑制現象の解析検討をすすめ、このほどウィスカ抑制理由の一端を解明いたしました。

 すでに、モデファイドII錫めっき導体の亜鉛コーティングは非常に薄い場合にウィスカ抑制効果がみられることが判っておりますので、この解析経緯についてご報告いたします。
 はじめに、モデル的に錫めっき表面のナノ亜鉛コーティング層厚みを変えたサンプルにより、その厚みと構成元素の状態を確認し、ついでウィスカ抑制効果の関係を調べた結果、ナノ亜鉛コーティング層厚さが薄いものほどウィスカの発生の抑制効果がある事が判明し、錫めっきへの亜鉛コーティングの厚みの適正条件を3ナノメーター程度としております。

 次に、モデル実験で得られた構成元素の状態の再現を狙って最適厚さのナノオーダーの亜鉛をコーティングした条件のもとで、実際の製品に近いモデファイドII錫めっき導体を試作し、これを使用して製作したFFCのサンプルにより、ウィスカ抑制効果の評価と、表面酸化膜構造の確認をいたしました。
 ウィスカ抑制効果検証のため、亜鉛をナノコーティングしたモデファイドII錫めっき導体を使用したFFC試作サンプルと錫めっきのみを導体に施したFFCサンプル各250本の導体を用いて、コネクタの接続によるウィスカの発生試験を実施しました。その後、ウィスカの発生状況を電子顕微鏡で詳細に観察し、比較したところ、ナノオーダーの亜鉛コーティングを施したモデファイドII錫めっき導体を使用したFFCサンプルのウィスカの発生が大幅に、すなわち3分の1に抑制されたことが判りました。
 この試作サンプルに関する構成元素と状態は、モデル実験品と同様、約3ナノメーターの層内に亜鉛、酸化亜鉛と酸化錫の存在が確認できました(図3、4参照)。一方錫めっきしたままのサンプルの表面からは、予想されたように酸化錫(SnO、SnO2)が確認できました(ナノ表面状況をモデル的に示した図5参照)。これより、亜鉛のナノコーティングにより、めっき表面酸化膜の状態が変わっていることが判ります。

 FFCとコネクタ接合部の周辺を観察すると応力が負荷された錫めっき部が変形し(図2参照)その部分からウィスカが発生しています。錫めっきの表面のナノオーダーの膜の質が変われば、この変形部においてウィスカ発生の駆動力である応力を分散開放する役目をする可能性があると考え、コネクタとの接続を想定して、ビッカース硬さ試験(注1)による圧痕周辺の性状変化を調べるとともに、極端な試験ではありますが、単軸引張り試験(注2)中ひずみ付加を停止させたのち表面の性状を極めて高い倍率で電子顕微鏡観察をしました。この結果、亜鉛ナノコーティングを施したものとそうでないものでは膜表面の形態が著しく異なることが分かりました。これらの結果を総合すると、モデファイドII錫めっき導体のウィスカ抑制の効果は、ナノオーダーの膜質の変化によりウィスカ発生の駆動力を減少させたものと推察されます。

 このようにモデファイドII錫めっき導体を使用したFFCのウィスカの発生を抑制する理由の一端が判明したことで、お客様により安心して使える製品に近づいたものと思われます。また、今回の解析結果は今後の錫めっき材料のウィスカ発生機構解明に役立つものと期待しております。
当社グループでは、モデファイドII錫めっき導体を使用したFFCの販売拡大を目指すとともに、さらにウィスカ抑制効果の高い製品の開発を進めてまいります。

以上

  • 左:図1.FFC外観写真 / 右:図2.コネクタ接続部に発生したFFC上のウィスカ
  • 左:図3.亜鉛をナノコーティングした錫めっきのAES分析結果
    右:図4.亜鉛をナノコーティングした錫めっき表面のXPS分析結果
  • 図5.錫めっき表面に亜鉛をナノコーティングしたサンプルと、
    亜鉛ナノコーティングを施さないサンプルの表面状態モデル図
*1 ビッカース硬さ試験とは、正四角錐のダイヤモンド圧子を、試験片の表面に押し込み、その試験力を解除した後、表面に残ったくぼみの対角線長さを測定する試験。
*2 単軸引張り試験とは、試験片の片側を固定し、角度を加えずに引張る試験。