2004年 旧 日立電線ニュースリリース

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このニュースリリース記載の情報(製品価格、製品仕様、サービスの内容、発売日、お問い合わせ先、URL等)は、発表日現在の情報です。予告なしに変更され、検索日と情報が異なる可能性もありますので、あらかじめご了承ください。

DMFC燃料電池に使用可能な耐食金属セパレータ材を
世界で初めて開発

新開発のセパレータを使ってDMFC燃料電池スタックを起動、
黒鉛セパレータを使用した従来品の
1/2のコンパクト化を達成

 このたび日立電線株式会社は、次世代の携帯機器用電源として注目されている直接型メタノール燃料電池(DMFC)*1に使用可能な耐食金属セパレータ材*2を世界で初めて開発し、株式会社日立製作所 日立研究所と共同で、金属セパレータを使用したDMFC燃料電池スタックを起動させることに成功しました。本DMFC燃料電池スタックは、金属セパレータを使用することで、コンパクト化・軽量化が図られております。また、135×74×38mmのスタックで、出力20W級のノートパソコンが駆動できるようになります。

 燃料電池は、水の電気分解とは逆の反応を利用して、水素イオンによる発電が可能になるクリーンな発電方法です。
 燃料電池の主要構成部品であるセパレータ材は、使用環境に耐えうる耐腐食性と、発電エネルギーを取り出すために低抵抗率であることが要求されることから、現在は、このような特性に優れた黒鉛製精密加工品が使用されています。しかし、黒鉛は衝撃などに弱いためセパレータ材としては厚いものにならざるを得ず、また、精密加工するためにコストがかかることが課題となっていました。
 さらに、水素イオンを取り出すのにメタノールを使用するDMFCは、水素ガスを使う水素系燃料電池(PEFC)*3に比較して取扱いが簡単なことから、携帯機器用電源として特に注目を集めています。従って、DMFC用のセパレータ材は特にコンパクト化が求められるようになっています。しかし、メタノール環境は、樹脂の膨潤、金属の腐食・酸化が進みやすいなど、非常に苛酷であるため、セパレータ材として黒鉛あるいは貴金属以外は使用が不可能となっていました。

 そこで当社は、DMFC用として高強度・低コストで、かつメタノール環境に耐えうる耐食性をもつ金属系のセパレータ材の研究を重ね、このたび世界で初めて開発に成功したものです。
 今回の技術開発のポイントは、下記のとおりです。
(1)表面処理方法として新たにナノメタル導電処理法(M-コート)を開発
 クラッド材の表面にナノメートル単位で貴金属を蒸着したのち、独自開発の表面処理方法により表面の強度を高めることに成功しました。これにより、クラッド材を高導電性表面で耐メタノール性の基材に改質できます。
(2)チタン系の耐食金属クラッド材を適用
 クラッド材そのものも耐食性の高いチタン系を適用することで、M−コートによる表面処理ができない加工部の耐食性も高めました。
(3)DMFCに適したコンパクト構造のセパレータに型成形
 独自の加工技術により、微細な型成形が可能になりました。

 以上により、新開発の金属セパレータ材は、メタノールに関する高い耐久性と低抵抗特性が達成され、かつ量産時には、従来の黒鉛セパレータ材の50分の1〜100分の1の低コストが期待できます。

 燃料電池スタックは、セパレータを用いて電解質膜*4を間に挟み1組の単セルを構成し、それを多数枚積層した構造となっていますが、新開発の金属セパレータでは、金属特有のスプリング効果により、セパレータ同士を均一に締め付けられるため、積層することによって発生が懸念される電気エネルギーの漏れが起こらず、良好な発電特性を示します(図2)。 
 また、従来の黒鉛セパレータを使ったスタックと比較し、1/2のコンパクト化が達成されました。

 DMFC燃料電池スタックは現在開発途上にあり、各構成部材の特性も飛躍的な改善が期待できます。今回の成果により、ノートパソコンに求められるコンパクト化と出力がDMFCで達成できたといえます。

 携帯機器用メタノール燃料電池電源については、株式会社日立製作所、日立マクセル株式会社および当社の3社共同で、独立行政法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の助成事業として開発を進めており、本発表内容はその成果に基づいております。

以上

□ 用語説明
*1 直接型メタノール燃料電池(DMFC):  Direct Methanol Fuel Cell
 メタノール水溶液を燃料とした高分子電解質膜を利用した燃料電池であり、メタノール水溶液と空気を直接電極に供給することで発電する。携帯情報端末やモバイルPCなどのユビキタス電源として期待されており、駆動に伴っては水と炭酸ガスのみが発生するため、環境にも優しい燃料電池である。
*2 耐食金属セパレータ材:
 セパレータは、DMFCに供給するメタノール水溶液と空気を隔てる隔壁とスタック構造を形成する役目を持つ重要な部品で、従来黒鉛系が使用されているが、材料として金属が使用できれば、強靭で、薄く、コンパクトになるとともに、生産性が向上しコスト低減が期待できる。課題は、電池環境下での耐腐食性で、チタン系耐食金属セパレータ材は、この問題を解決する。すでに、PEFCでは使われ、黒鉛セパレータと同等の長寿命特性を示している。
*3 水素系(PEFC):  固体高分子形燃料電池(Polymer Electrolyte Fuel Cell)
 PEFCは、電解質に固体高分子膜を使用した低温作動型(70〜80℃程度)の発電装置。燃料は、水素と、空気中の酸素を化学反応させ、電気と熱(温水)を得られることから、家庭用・業務用や、電気自動車用電源への実用化開発が進められています。DMFCも、PEFCの一種で、室温で駆動できる。
*4 電解質膜:
 燃料電池開発のコアとなる材料であり、燃料極と空気極を隔てる高分子からなる膜。メタノール水溶液を直接燃料とするダイレクト型メタノール燃料電池では、燃料極側で生成する水素イオンのみを透過し、メタノールは透過させない性質が要求される。現状では、メタノールを透過させない膜の開発が不十分で、その分燃料電池の特性も低い。

ナノメタル導電処理した耐食金属クラッドセパレータ材

a.断面構造

  • a.断面構造

b.耐食金属クラッド材

  • b.耐食金属クラッド材

金属セパレータを用いたDMFCスタック(25W級)の外観と構成部材

[燃料電池スタック]

  • [燃料電池スタック]

単セル部品

  • 単セル部品