1999年 旧 日立電線ニュースリリース

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超強磁場用Nb3Al超電導線材のCu安定化技術開発

1.概要

 日立電線(株)は、科学技術庁金属材料技術研究所および(株)日立製作所と共同研究を実施し、20テスラ(T)をはるかにこえる超強磁場発生が可能な急熱・急冷法Nb3Al超電導線材のためのCuによる安定化技術開発に成功しました。
 実用の超電導線材としてはNbTi、Nb3Snがありますが、20T程度が発生限界となっています。一方、物性研究、核融合炉、加速器等の超電導応用では、超電導マグネットの高性能化、コンパクト化のために、Nb3Sn線材を上回る強磁場特性を持つ超電導線材が強く望まれています。
 このため、日立電線(株)と金属材料技術研究所および(株)日立製作所は、超強磁場用の次世代超電導線材として、臨界磁場が高いことから20Tをはるかにこえる磁場発生が可能な急熱・急冷法Nb3Al線材に着目して開発を行ってきました。その結果、実用化の重要なポイントである安定化Cuの複合化技術開発に成功しました。この技術によりNb3Al線材を用いた超強磁場マグネットの作製が可能になるとともに、Nb3Al線材とNbTi線材あるいはNb3Sn線材の接続が容易になり、マグネットの大型化に道が拓かれました。

2.背景

2.1 安定化と接続

 超電導線材は、使用中の熱的暴走を防ぐために、CuあるいはAlのような熱伝導性の優れた物質と複合することが必要です。また、線材の長さは有限なので、他の線材との接続も必要となります。

2.2 従来の製造方法

 Nb3Al の結晶構造はA15型で、NbとAlが3:1の比率で構成されています。A15型結晶構造を有する物質には、この他に、V3Ga、Nb3Ge等、優れた超電導特性を示すものが多くあります。しかし、ブロンズ法と呼ばれる比較的低温の固体拡散反応によって(最も優れた超電導特性を示す) 3:1(化学量論組成)のA15相だけが安定に生成するのはNb3SnとV3Gaのみです。その他のA15型物質の場合は、拡散熱処理を行うと超電導的に低級な他の比率の組成を持つ化合物相が混合して生成してしまいます。
 Nb3Snを凌ぐ強磁場材料としてもっとも実用化が期待されてきたNb3Al線材については、混合化合物層におけるNb3Alの体積比率を大きくする努力がなされました。すなわち、Jelly Roll 法等の製造方法によって、最近では、通常の電気炉による熱処理でも、〜12 T領域まではNb3Sn線材を上回る臨界電流密度(Jc)を有するNb3Al線材も得られています。しかし、20Tを越える領域でNb3Alに本来期待されるJcを達成するためには、生成するA15結晶が3:1の化学量論組成に近い組成であることが必須であり、熱処理に何らかの工夫をする必要がありました。

2.3 急熱・急冷法

 金属材料技術研究所は以上の問題点を解決する技術として急熱・急冷法を開発しました。この方法では、真空容器中でNbとAlの複合体線材を通電によって約1,900℃へ急速加熱した後、液体Ga浴(室温)中へ急速冷却します(図1)。
 急熱・急冷処理した複合体線材はNb-Alの過飽和固溶体となっており、さらに数十%の冷間加工を加えて所定寸法に仕上げた後、 800℃付近においてNb3Al生成の熱処理を施します。日立電線(株)はこの方法を導入し、強磁場特性の優れた長尺Nb3Al線材の開発に取り組んできました。その結果、現在では20Tをこえる磁場においてNb3Sn線材の2倍以上の臨界電流密度を持つ長尺(500メートル級)のNb3Al線材が得られるようになっています。

3.今回開発した技術の内容

 実用超電導線材では、線材中の超電導フィラメントが本来持っている性能を十分発揮できるように、安定化材と言われるCu、Al等の常電導金属マトリックスにそれらを埋め込むことが構造上不可欠です。これにより、超電導フィラメントの超電導性が破れても、熱伝導性の良好な安定化材の存在によりその発熱を吸収発散し、影響がフィラメント全体に伝播するのを阻止することができます。しかし、急熱・急冷法Nb3Al線材の場合、通電加熱時に線材温度は約1,900℃に達するため、融点1,083℃のCuを前もって複合しておくと、そのCuは通電加熱時に溶けてしまいます。従って急熱・急冷処理を行った後で安定化材と複合することが必要になります。
 ブロンズ法など通常の複合加工法においては、数十%程度の冷間加工度ではCu/Nbの異種金属間の良好な金属接合が得られません。今回開発した安定化技術では、まずCu、Nbそれぞれに特殊表面処理を施します。これをクラッド圧延した後でNb3Al生成熱処理を行うと、強磁場超電導マグネットの製作に使用できるCu安定化Nb3Al線材となります。この方法はCuを任意の厚さに複合できるので作業性もよく工業化に適した方法と言えます。

4.今後の見通し

 Nb3AlはNb3Snに比べ歪みに対して安定であり、マグネットに強い電磁力が働く超強磁場での使用に適しています。急熱・急冷法によって強磁場特性が飛躍的に改善されたNb3Al線材にCu安定化技術が加わったことで、強磁場をコンパクトなサイズで発生することが可能となります。その結果、例えば23.5Tの磁場が要求される1 GHz NMR(核磁気共鳴)マグネットをはじめ、磁気核融合炉用マグネットや加速器用2極・4極マグネット、さらにはHeを使わない高磁界伝導冷却マグネット等の実現可能性が非常に高くなったと言えます。

参考

   写真は、急熱・急冷処理した直後の Jelly Roll 法Nb3Al線材の断面を示したものです。この状態では、先の理由でCuをつけることはできません。この丸線にCuを複合して平角成形後、800℃×10hrの熱処理を施しました。仕上り線材は外形1.5×0.72mm、Cu比0.44、 Nb3Alフィラメント径81μm、フィラメント数84となっています。この線材を用いたコイルの設計、製作は(株)日立製作所が担当しました。
(1) 安定化
この線材から製作した内径20mm、外形42mm、高さ38.3mmのコイルは、運転電流200A(発生磁界1.4T)までクエンチなしに安定に通電することができました。
(2) 接続
永久電流モードで運転されるMRIやNMRの超電導マグネットには、線材どうしを極めて小さい抵抗で接続する技術が必要となりますが、今回のCu安定化急熱・急冷法Nb3Al線材とNbTi線材との接続において、要求レベルを満足する低い抵抗値が得られています。
(3) Jelly Roll 法
NbとAlをのり巻き状に巻いて押し出したものを、いくつか合わせて使用する方法。
(4) 冷間加工
室温での加工
また、今回の安定化材複合方法に関しては金属材料技術研究所と共同で特許出願済みです。

以上