1991年 旧 日立電線ニュースリリース

一覧へ戻る

このニュースリリース記載の情報(製品価格、製品仕様、サービスの内容、発売日、お問い合わせ先、URL等)は、発表日現在の情報です。予告なしに変更され、検索日と情報が異なる可能性もありますので、あらかじめご了承ください。

米国・SSC計画の
入射リングHEB用超電導線納入候補メーカーに選定される

 このほど当社は、米国・SSC(Superconducting Super Collider)研究所*1 から、SSC計画の入射リングHEB(High Energy Booster)のマグネットに使用されるニオブチタン(NbTi)超電導線の納入候補メーカーに選定され、これにより本計画に参画することになりました。今回、HEB用超電導線の納入メーカーとして選定されたのは、3社ですが、日本では当社1社のみが選定されました。

 SSC計画は、米国のレーガン前大統領が1987年に承認した、総額1兆2,000億円といわれる巨大粒子加速器建設計画です。加速器は、陽子・電子等の粒子を高エネルギーに加速して衝突させ、それらを構成している素粒子を究明するための装置です。SSCは、テキサス州ダラス市郊外に設置される予定で、線型加速器、LEB(Low Energy Booster)、MEB(Medium Energy Booster)、HEB、コライダーリング(Collider Ring)の5つの加速器からなっています。線型加速器で発射された粒子は、LEB、MEB、さらには周長10kmのHEBを通過する間に徐々にエネルギーを高められ、そこからメインとなる周長87kmのコライダーリングへ入射されます。コライダーリング内で、粒子同士を衝突させるわけですが、衝突時の粒子のエネルギーは、20Tev×2=40Tev(1Tev=10の12乗電子ボルト)にも達します。これらの加速器のうち、HEBとコライダーリングには、高エネルギー下で粒子を制御する必要があるため、超電導マグネットが使用され、この建設には、超電導・極低温・高真空等の最先端技術が要求されます。

 HEBは、432台の偏向用2極マグネットと278台の収束用4極マグネットから構成されます。コライダーリングのマグネットの中心に位置するビームパイプの中に、加速粒子を精度よく入射させる必要があるため、HEBのマグネットには高い磁場精度が要求され、また、2〜3分単位の運転サイクルに伴って発生する交流損失もできるだけ少なくすることが要求されます。このためSSC研究所では、HEBマグネット用超電導線材の仕様を、(1)NbTiフィラメント径を2.5μmと極細化(コライダーリング用の線材の場合は6μm)してヒステリシス損失*2 の低減を図ること(2)磁化特性の改善のために、フィラメントを銅・マンガン(Cu-Mn)合金の下地(マトリックス)に埋め込む構造とすることに決め、世界の超電導線材メーカー10社に対し、HEB用NbTi超電導線材の製造に関するプロポーザールの提出を要請していました。しかしながら、極細化されたフィラメントで、高い臨界電流特性と成形撚線時の強変形に耐える機械的特性という相反する特性を両方バランスよく満足することが要求されるため、その製造は、コライダーリングのマグネット用超電導線材に比べて遥かに難しく、これまで長尺線材の試作に成功したメーカーはありませんでした。

 当社では、以前より本計画に参画するために、独自に超電導線の試作研究を進めておりましたが、このたび世界に先駆けてHEBの内層コイル用長尺30本成形撚線、外層コイル用長尺36本成形撚線の開発に成功しました。今回の成功は、超電導線の安定化材として不可欠な無酸素銅(OFC)の連続鋳造機を用いて高品質のCu-Mn合金を生産できたこと、優れた超電導特性が得られ、かつ、加工性を損なわないような断面構成の設計ノウハウを蓄積してきたこと、複合材の均質加工に適した液圧押出法を適用したこと等によるものです。これらの成果を踏まえて当社がSSC研究所に提出したプロポーザルの技術水準の高さ、試作サンプルの性能の良さが高く評価されて、今回のSSC計画への参画となったものです。

 なお、今回の参画は、SSC計画の第1段階であり、今回の3社でHEB用超電導線材の製造方法、成形撚線技術を、DOE(エネルギー省)の承認を得た後、約1年間で確立することになっています。今後、SSC研究所の評価判定で合格することを条件に、さらに第2段階、第3段階へと進んで、マグネットの生産を踏まえた線材の量産化技術を確立していくことになります。なお、実際にHEBリングに設置するマグネットに用いるNbTi超電導成形撚線の総量は、約270トンといわれており、1994年から同研究所の最終評価に合格したメーカー1社の手で、生産が開始される予定です。

以上

*1SSC研究所
SSCの設計、建設、研究計画の運営のために、DOEがURA(University Research Association)と共同で、1989年にテキサス州ダラス市に設置したもの。加速器システム、マグネットシステム等6つの部門からなり、既に1,000人以上の職員が精力的に活動している。
*2ヒステリシス損失
超電導線材の交流損失は、ヒステリシス損失と結合損失に大別される。このうち、ヒステリシス損失は、超電導フィラメント自体から発生する損失で、超電導体がピンニングにより磁束を補足するため、磁性体のようなヒステリシス現象を示すことに起因する。ヒステリシス損失は、超電導体の臨界電流密度、フィラメント径及び外部磁界の強さに依存する。