1991年 旧 日立電線ニュースリリース

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直径4インチの低転位ガリウムひ素ウエハを製品化
ボート法(水平ゾーンメルト法)で大形単結晶を開発

 このほど当社は、ボート法の一種である水平ゾーンメルト(HZM)法*1 を用いて、直径4インチのガリウムひ素(GaAs)大形・低転位・高均質単結晶を開発し、2月よりサンプル納入を開始しました。GaAsの4インチウエハは、引上げ法(LEC法)*2 では既に量産化が達成されていますが、ボート法では世界で初めて量産化に成功したものです。

 近々、チップサイズの拡大傾向やデバイスメーカーの生産性向上の観点から、GaAsウエハの大形化の要求が強まりつつあります。また、GaAsデバイスの性能を向上させるためには、エピタキシャル成長*3 法を用いて多層構造とする必要がありますが、このエピタキシャル成長用基板には低転位の結晶が要求されます。そのため、半導体レーザ等に使われるGaAsウエハは、低転位の結晶が得やすいボート法で製造されていますが、4インチの大サイズとなると温度制御等が難しく、これまで量産技術が確立されていませんでした。一方、LEC法では4インチウエハの生産は可能ですが、転位密度が数万個/cm2以上となるため、半導体レーザ等には使えず、こうしたことから低転位のGaAsインチウエハの開発が強く求められるようになってきました。

 当社は、ボート法の新しい方式であるHZM法を1989年に開発し、これにより直径3インチまでの低転位GaAsウエハを量産製造していますが、今回、この水平ゾーンメルト法にさらに改良を加え、ゾーン幅を従来より狭くし、温度をプラスマイナス0.1度Cの精度で制御すること等により、直径4インチの低転位(転位密度10の3乗個/cm2台)・高均質GaAs単結晶の量産技術の確立に成功したものです。

 今回の低転位4インチGaAsウエハ量産技術の開発により、これを用いて作られるクロムドープ、半絶縁性GaAsウエハがMOVPE*4 法やMBE*5 法のエピタキシャル成長用としてまた、シリコンドープn型GaAsウエハが半導体レーザ用として、それぞれ使用が拡大することが期待されます。

以上

用語の説明

*1水平ゾーンメルト(HZM)法
GaAs原料を部分的に溶かしながら結晶を成長させる製法。ドーパント濃度を結晶の長さ方向に均一にできるという利点があるだけでなく、石英アンプルや石英ボートの熱変形が比較的少ないため大形結晶成長に向いている。一方、低転位の単結晶を成長させることが難しいため、当社以外では実用化されていない。
*2LEC(Liquid Encapsulation Czocharalski)法
液体封止チョクラルスキー法。融液の上に溶融ガラスを置いて分解を防ぎながら一般的には高圧容器内で種結晶を用いて単結晶を成長させる方法。ドーパントを加えない状態で半絶縁性結晶がえられるが、高圧容器内のため精密な温度制御が難しく、転位密度は高くなる。
*3エピタキシャル成長
ある結晶の表面に、他の結晶が規則正しく、ある定まった方位関係で成長することをいう。結晶の格子定数(原子間距離)の似ているもの同士は、安定なエピタキシャル成長が可能である。
*4MOVPE(Metal-Organic Vapor Phase Epitaxial grouth:有機金属気相エピタキシャル成長)
エピタキシャル成長方法の一つで、原料として有機金属化合物の蒸気を使用する気体からの結晶成長。多層構造の膜の作成が可能であり、大量生産向きである。
*5MBE(Molecular Beam Epitaxial growth:分子線エピタキシャル成長)
エピタキシャル成長方法の一つ。10のマイナス10乗〜10のマイナス12乗mmHg(torr)の超真空中で原料の原子又は分子を加熱により気化させ、ビーム状にして基板上に析出成長させるもので、1〜2原子層程度の薄膜を形成することが可能である。